梅雨の日本庭園をアジサイとともに彩るのがハナショウブです。現在私たちが目にするハナショウブのほとんどは、ノハナショウブただ1種から花形や色の変ったものを選抜し改良されてきたものです。
改良された地域の気候風土や観賞する人の感性によって、後述の4つの異なったタイプに分類されます。日本で独自の発展を遂げたハナショウブは日本の園芸文化を代表する古典園芸植物であり、このような文化を残し、継承していくことも植物公園の重要な役割といえます。
植物公園のハナショウブ
日本庭園内のハナショウブ園では、約100品種1,000株のハナショウブを収集・展示しており、例年6月頃、同じく見頃となるアジサイの展示と併せて「ハナショウブ&アジサイまつり」を開催しています。
菖翁花について
当園のおすすめのハナショウブはなんといっても菖翁花(しょうおうか)。
貴重な江戸古花のなかでも別格のハナショウブです。江戸後期から今日まで連綿と受け継がれてきた品種ですが、現在では約20品種が残っているだけといわれています。広島市植物公園は20品種のうち18品種を保有し、これらの保存に努めています。
江戸時代後期、旗本の松平左金吾定朝は、京都西町奉行などの要職についたエリートでありながら花菖蒲の改良に取り組み約300品種を作出し、現在私達が見ることが出来る花菖蒲の基礎を築きました。「花菖培養録」などを著し花菖蒲の文化的価値や芸術性を高めました。彼の作品は門前市をなすと言われるほどの評判となりましたが、基本的に門外不出とされていました。晩年自分のことを菖翁(しょうおう)と称したため彼の作品は、敬意をこめて「菖翁花」と呼ばれています。
当園保有の菖翁花
※菖翁花とされる品種には諸説あります。
江戸タイプ
江戸時代中期から江戸で育種改良されてきた品種群。屋外での栽培を前提としており、風雨に強く丈夫な品種が多く残っています。江戸庶民の好みにより、スッキリとした立ち姿の「粋でいなせ」な花が愛されました。菖蒲園の八つ橋や土手の上から見下ろす形で群生の美しさを観賞します。
伊勢タイプ
紀州藩士吉井定五郎によって伊勢松坂で改良された品種群。垂れ咲の三英花のみで六英や八重はありません。花弁に細かい波状の凹凸が入る縮緬地や、雄蕊の先端が細かく切れ込む蜘蛛手など、繊細で女性的な美しさが特徴です。肥後タイプ同様に室内観賞目的で改良されており、姿勢を低くして花弁の垂れ具合を観賞します。
肥後タイプ
江戸の菖翁花をもとに、肥後熊本の藩士によって育種改良された品種群。近年まで門外不出とされてきました。一輪の花の美しさを室内で正座して観賞することを目的として改良されており、草丈は低く堂々とした威厳のある大輪花が特徴です。花の正面で姿勢を低くして、内花被(鉾)のたち具合や芯の見事さを観賞します。
長井タイプ
山形県長井市で栽培されてきた品種群。ノハナショウブの面影を強く残しており、三英花が多く、清楚で可憐、シンプルで飽きの来ない魅力があります。屋外の菖蒲園で群生美を楽しみます。